1. 概要
Takasago Global Procurement Sustainability Key Initiatives (TaSuKI)の取り組みを立ち上げてから4年が経過し、今年のサステナビリティ報告書はこれまでに達成した全体目標と戦略的取り組みを振り返りました。ご理解いただく良い機会になればと思います。
サプライチェーンの川上統合に向けて
- TaSuKIとは:CSRに関するステークホルダーからの期待に対応しながら、戦略的主要原材料の調達管理を十分な内容へと導くための専門的な取り組みと言えます。
- TaSuKIの戦略とは:高砂香料グループが必要とする最も戦略的な原材料を確保するために、原材料の原産地における持続可能な調達戦略と原産地を支援するサポートを計画し、実行に移して、発展させていくことに取り組んでいます。
- TaSuKIの活動範囲とは:象徴的な香料原材料について、原産地の周辺を拠点として、現地での活動にも直接関与して原材料の調達活動を進めることを目指しています。
昨今の新型コロナウイルス感染症によるサプライチェーンの混乱、地政学的な危機などの前例のない状況にもかかわらず、私たちはこれらの困難をうまく切り抜けて、グレープフルーツ、テレピン油、ラバンジン、バニラ、パチョリなどに関する戦略的なTaSuKIの取り組みを推進してきました。
原産地における川上統合の加速
高砂香料の創業者が100年前に、香料について学ぶために京都から香料の聖地であるフランスのグラースへと旅立ったことになぞらえて、“Kyoto to Grasse”として香料原材料の各産地を結び、各地でのTaSuKIの取り組みを展開しています。
2. 進行中のプロジェクト
フランスのラバンジングロッソ向こう10年間の前進的な「農家からフレグランス製品へ」のラバンジングロッソオイルに関する契約 – “TaSuKI Originals, Care and Comply” |
2022/2023年産の収穫ついては、残念ながら、前年に予想していたような事柄が起こってしまい、記録的なインフレと地政学的緊張状況のため、世界的な景気減速に見舞われました。これにより香水や一般消費財など幅広い用途で用いられるラバンジングロッソの需要は直接的な影響を受けて減衰しました。そのような状況に応じるように、ラバンジングロッソの在庫は農家から協同組合、商社、香料メーカーに至るサプライチェーン全体にわたって積み上がることとなりました。
2022年夏の収穫は干ばつのために平均的なものでしたが、需要と供給のバランスに十分な影響を与えるような内容ではありませんでした。その結果、市場価格は2年連続でさらに暴落し、製造コストや農家が期待する生活収入をはるかに下回る記録的な最低水準に達しました。高砂香料グループはこのような悲惨な状況に加担するようなことはせずに持続可能性について生産者と語り合い、フランス農協団体(SCA3P)と2020年に締結した10年間の長期的な合意に基づいた公平な固定価格による購買取引の遵守を厳格に実行しました。
この合意事項を遵守することは、SCA3Pと関連する206の農家組合員が最も必要としている時期で、高砂香料グループが財政的な支援を実現していることとなりました。また、適正価格による長期間の購買取引の合意は、農家のラバンジングロッソ栽培への関心を維持することにもなります。これにより、将来的な生産量の減少や価格の高騰や投機的な動きを避けることにつながり、原材料価格や供給量の変動により生じるリスクを緩和することができるものと考えます。
フランスのラバンジングロッソ持続可能なグレープフルーツ:新たな植樹- “TaSuKI Originals, Care and Comply” |
長期にわたるサステナブルグレープフルーツ・プロジェクトは引き続き順調に進行中です。2019年に締結された契約は、フロリダに植えられた新しい農園が生産開始の準備を整えたことで、良いペースで続いています。この取り組みはシトラス産業とのユニークで強い関係構築をもたらしています。
バリューチェーン全体が統合され、同じ方向を向いています。植樹されるグレープフルーツの木は、2023年には目標全体の85%に達する見込みです。現時点で、第一段階で植えられた木が実をつけ、その結果、持続可能な農園から初めてグレープフルーツオイルが生産される予定です。私たちは持続可能なグレープフルーツオイルの供給を見込んでおり、フレーバー、フレグランスの両分野へのユニークな品質の精油開発に着手していきます。
マダガスカルのバニラ高砂マダガスカルからのニュース– “TaSuKI Originals, Care and Comply” |
この3年間、マダガスカルのバニラ市場は、最低輸出価格の実施にもかかわらず大変動を経験してきました。新型コロナウイルス感染症とウクライナ危機によって、当初、買い手は原材料をより多く求めましたが、インフレはその逆を引き起こしました。その結果、買い手はより安価な代替品を求め、需要は減少しました。供給過剰によって数千トンのバニラ豆が売れ残り、マダガスカルの経済に悪影響を与え、サプライチェーンにおける破綻を引き起こしました。
マダガスカルのバニラ農家が直面する困難を前にして、当社は地域社会と密接に協力することでサステナビリティの推進に引き続き尽力しました。
• 2022年における当社とマダガスカルのバニラ豆農家の持続可能な取り組み
持続可能な取り組みとサステナビリティビジョンの達成は、社会、環境、そしてフェアビジネスといった3本の柱に基づいています。2022年にはその取り組みがバニラ調達の地域組織をさらに強化することへとつながりました。
持続可能な取り組みは、バニラ生産者の協同組合と地域社会が地元のニーズに沿って特定したプログラムの開始によって、この1年で顕著になりました。中長期的な目標を掲げた3つのプログラムが始まりました。
中長期的な目標を掲げた3つのプログラムが始まりました。
1- バニラ農家の村のインフラ整備
道路を整備し、貴重なバニラを運ぶ人々の安全性を向上させるなど、地方開発を刺激することを目的としています。村人たちからは橋の修復と公共照明の整備が挙げられています。
2- Makadabo地域における絶滅の危機に瀕した森林の再生
この計画は、森林を再生し、自然保護に適した方法を導入するだけでなく、バニラ農家に代替収入源を提供することも目的としています。この活動はバニラの協同組合、地域社会、そして2,000本の林木と3,000本のクローブの選定を指導しMakadabo地域への移植に成功した地域林業事務所を通じて公式な支援を受けています。この活動により、私たちのチームは、森林開発やクローブ生産量の測定な、プロジェクトの成功を中長期的にモニタリングしています。
3- 就学率の向上
バニラ農家の子供たちの就学率向上にフォーカスする取り組みは地域社会の需要の一つです。地方開発と地域社会の生活水準を向上させるため、および、バニラ農園では通常見られないことですが児童労働撲滅のために、このプロジェクトが実施されています。このプロジェクトでは三つの小学校が戦略的に重要であると認識されています。これらの学校は改修され、備品(テーブルとベンチ)が提供されました。この措置は、学校環境の魅力を向上させるために不可欠です。もちろん、これらの活動は、毎年、同じトピックに関する研修や意識向上活動など、当社のチームと地元コミュニティとの間で行われるワークショップによって補完されます。当然ながら、この活動はその効果を確認するため、特に就学率を測定することで中長期的にモニタリングされます。
• 2022年における持続可能な活動の結果と貢献
6つの大きな村のバニラ農家との共同で、2022年に実施された社会的、環境的取り組みはポジティブな結果と地域のインフラの向上を達成し、2,966人の人々に利益をもたらしました。
これら全ての取り組みが地域のバニラ産業の向上を含む当社のサステナブルビジョンと連携しています。当初の長期予測から、それらの取り組みは将来的に16,446人の人々に影響を与えることが予想されています。教育プログラムへの投資は584人の生徒に恩恵をもたらし、森林再生や農家支援などの環境への取り組みは地域社会の生活の質を向上させ、242haの農地にプラスの影響を与えました。
さらに、Ecocert FFL、オーガニック、UEBT/RAの生産者を当社マダガスカルの調達能力に加える活動もこの地域で実現する可能性があります。
今後の展望
マダガスカルのバニラ農家は、大量のキャリーオーバーによる景気悪化で収入減に直面し、その活動が危機に瀕しています。今後、彼らのバニラ栽培への関心を維持する努力が重要になりますが、危機的状況は今後2~3年は続く見込みです。2023年には、バニラ生産者と緊密に協力し、サステナブルビジョンを推進し、森林再生のさらなる拡大、ヘルスケアの改善、インフラの充実、バニラ農業のベストプラクティスの普及を図る計画です。
持続可能なパインケミカルグリーンケミストリーを支える原料調達の強化 – “TaSuKI Originals, Comply and Share” |
2020年3月、当社はLAWTER B.V.の一部株式取得と、LAWTER社の親会社であるハリマ化成グループ株式会社との合弁契約に至っております。この合意により、高砂香料グループのコアテクノロジーである「グリーンケミストリー」を用いた l-メントールの製造を目的とした当社グループでの調達が強化されています。松(パイン)を出発とする「パインケミカル」は、樹脂、化成品から電子材料などさまざまな用途に活用されており、アロマケミカルでは、松を由来として得られる粗サルフェートテレピン油やガムテレピン油が重要な原料です。しかし、ガムテレピン油の供給に影響を与えるガムロジンの需要は、ここ十年来、低迷しており、ガムテレピン油の不安定な供給と価格の変動の原因となっています。その一方で、昨今、消費者がサプライチェーン全体でのトレーサビリティや透明性、「責任ある調達」へ多くの注意を払うようになり、川上統合の価値はますます高まっています。
ハリマ化成グループ株式会社では、パルプ・製紙工場から得られる粗サルフェートテレピン油を主な粗原料としているため、ガム相場の変動によるリスクは比較的低く、供給および価格の安定性や、トレーサビリティ情報の開示でもより優位性があります。また、同社では加古川製造所で香料原料(ミルセン)の製造設備を建設し、2023年4月に完工しました。なお、当設備の運転に必要なエネルギーには、主に自家発電による再生可能エネルギーおよびカーボンニュートラルな燃料が使用されており、実質CO₂フリーのプラントを目指して運営されています。
当社は、このようなパートナーシップを通じて、サプライチェーン全体にわたるトレーサビリティの強化やGHG排出量低減への取り組みを推進し、持続可能な調達を目指してまいります。